August 17, 2006

正しい日本語を使う

(一部間違っている部分がありましたので、8/20に修正を行いました)

正しい日本語を使う、って意外と難しいです。私は、日常的に『間違っている』日本語を使っているし、無意識のうちに使っています。
多いのは、「ら抜き」言葉でしょうか。無意識に使ってしまうので、間違っていると分かっていてもなかなか体からは抜けません(^^;
少し検索してみると、他にもたくさん間違っている日本語があるので、そういうものも直せるものは直して行きたいですよね。小説を書いている身なので、なるべく間違っている日本語は使いたく無いなぁ、と言う本音です(笑)
けれど、一概に『これが合っている』『これが間違っている』とでも言えないようで、色々と複雑です。

私は一昨年くらいまでずっと年賀状に「よいお年を!」って書いてました(笑) ずっと、「今年の1年もよいお年をお過ごし下さい」のことかと思っていて、ずっと注意され続けていたのに、毎年忘れて「よいお年を!」と書いていましたw
今から考えると恐ろしいです。受け取った方はどんな風に感じてたんだろうと今更ながら気になってしまいます。
日本語の間違い…というか、根本的に色々間違っている気がします(苦笑)

ブログを運営していると、とても身近に感じる『リンク』なのですが、これについても『貼る』か『張る』かの意見があるようです。
会話では無いですが、どちらが正しい日本語なのかもとても気になってたりします。
リンクはクモの巣のように広がって行くから、「クモの巣が張る」で「張る」では無いのかというのもありました。人のページにリンクをぺたっと『貼る』のは自由だから貼るのでは、というものなども。
私は、『貼る』なのですが、どっちなのかなぁと気になります。
全然、という言葉に対する肯定もありますよね。
「全然大丈夫」や「全然上手いじゃん」とか結構使っているかもしれないです。本来は、全然って否定に使うものなんですよね。
…と、私は思っていたのですが、どうやらこれも可能、不可能とする考え方があるそうで、どうなのかなぁと(^^;

ググってみると結構そのサイト様があったので、リンクを貼っておきます。
正しい日本語
正しい日本語を書こう
正しい日本語を守る会
↑こんなサイトもありました。1つ1つの記事につき、色々な意見を見ることが出来るので、なるほどなぁと納得することがとても多いです。

検索していると、やっぱり賛否両論で、本当の正しい日本語というのは、分からなくなってしまいます。今の言葉が、違和感無く日常で使えて、じゃぁそれは「間違ってる」のかなぁ、と。
時代の移り変わりとともに、言葉も変化していくのだから、今使っている日本語が「正しい」のかもしれないですね。上記にもあるように、「全然」という言葉も昔は肯定の意味で使われていて、今は否定だと言えば肯定だと言う人もいます。
正しい日本語、っていうのは思うよりも曖昧なものなのかもしれないですね。
私は、自分が正しい日本語だと思うものを使って、明らかに間違っているものなどは出来る限り直して行きたいな、とは思っています。

livedoor ニュース - "正しい日本語に自信なし"7割
こういうようなニュースも。一番好きな言葉は、「ありがとう」…となっているのですが、私も一番好きな言葉は「ありがとう」です。何よりも、言われて嬉しい気持ちになれる…と勝手に思ってますw
何かをしてあげた時、たとえば消しゴムを拾ってあげたなど、些細な出来事でも「ありがとう」と笑顔で言われたら、嬉しいです。感謝されているということが、とても嬉しくて、「役に立てたんだ」と思えます。
たった5文字だけど、あるのと無いのとではかなり違うのではないでしょうか。
…あぁー日本語って難しいです…

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August 16, 2006

暑中お見舞い申し上げます!

2006summer
暑中お見舞い申し上げます!ということで、遅くなってしまいましたが、前々からせこせこと描いていたイラストをアップします。背景の空の画像は、ゆんフリー写真素材集様からお借り致しました!ありがとうございました(^^
まだまだ塗りも線画も下手なのですが…orz
画像をクリックすると、原寸大にリンク致します。…と、とりあえずは瞳を上手く描けるようになりたい…!

小説も、また少し短編を考えています。
ココログのカスタマイズのことも、まだまだ波に乗れていないので(汗/進化はものすごい早いです…)しっかりと波に乗れたら、頑張ってみます!
ファビコンもそろそろ変えたいですし…。色々やりたいこと盛りだくさんです。

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August 14, 2006

LocoRocoころころ。

久しぶりにゲームをやりました(笑)
ゲームキューブなど昔はやったのですが、今はめっきり。ゲームと言ったら、他サイト様でおすすめされていたものや、ネットゲーム(主に脱出系)が主です。
PSPとDSの区別がつかなくて、未だに名前を言われてぱっとどんなゲーム機か出てきません…どうしましょう(苦笑)
少し、貸してもらって試しにやってみました。LocoRoco!! まる〜いのがころころと転がるゲームみたいでした。
…というのも、あのCMです!どうしてもあの歌が頭から離れなくて。何を喋っているのかもとても気になります。
私の頭の中だと→「あっちょぼの〜いのいのいかたらたぱっとんいんびゅしゅいンとぅれりん♪」
………………。
黄色く丸い物体が(ぇ)とても可愛らしくて、「ちょっとやってみたいなあ…」と思い、借りてみました。

LocoRoco(ロコロコ)
LocoRoco(ロコロコ)
posted with amazlet on 06.08.14
ソニー・コンピュータエンタテインメント (2006/07/13)

操作方法なども結構簡単で、一日15分!(笑)でやってました。
LとRと○ボタンが主で、きっと老若男女、年齢関係なく遊べるものなのかな、と思いました。ステージを転がして、○ボタンで落雷、○ボタン長押しで集合…と、基本的にはこれだけです。あとは、LとRを使ってへこへこジャンプします。
私は、あまりにボタン数が多すぎるとどれがどれだか分からなくなって、格ゲーなんかは出来た試しがありません。しかも、画面を見て理解をすることが出来なくて、「え?これがステータス?で、これは?何?」…って感じだったのですが…orz
ロコロコは操作方法も画面もシンプルで、すごく見やすい。しかも可愛い!(笑)
すごく操作方法も分かりやすいのに、簡単…というわけでは無くて、私はずっと一面を繰り返しやってました…そんなもんです………
単純なのに、奥が深くて隠し通路や、歌をうたって、道を開けてもらったりしたり…と、ずぶずぶと深くハマっていく感じですw
きちんとストーリーもあって、面白いです。敵がいるハズなのに悠々と歌ってる姿とか、たまりません!!
戦闘系は苦手なのですが、倒すべき敵はものすごく少ないし…
すごくすごくなごみます。ふはぁー…
後は、自分で『ロコハウス』のパーツを手に入れて、作ったり…と、とても楽しいですよ。

私は、途中から始めたのでよく知らなかったのですが、プレイヤーは『惑星さん』です。
大地をかたむけて、ロコロコを転がしてあげて、落雷でたくさん集まったロコロコを分解したり…ロコロコ自身を動かすのでは無く、そのステージを操作するという感じです。
ロコロコの種類も何種類かあって、色や目、口が違います。性格も違うみたいですが、まだやりこんでいないのでよく分かりません(汗)
ネット上で体験版などの配布も行っています。やっぱりこういうゲームはCMじゃよく分からなくて、やってみることで面白いと感じることが多いのかもしれないですね(^^

PSP「LocoRoco」テーマソング 「ロコロコのうた」
こんなのもあるみたいですv いつか欲しいなぁ…なんて。テーマソング「ロコロコのうた」!(笑)

私が上でデタラメに書いてしまった歌詞…正式なモノはこちら!
http://www.jp.playstation.com/scej/title/locoroco/dl/song.html
LocoRoco公式サイト
http://www.locoroco.com/ (最初の言語を選ぶところで転がるロコロコがとても可愛い…)

私は、時々借りてやるだけなので、まだまだですが少しずつやっていきたいと思います。
夏休み、宿題は忘れてのんびりのほほん癒されようと(笑)

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August 13, 2006

電子書籍のご紹介

1日空いてしまいましたが、のんびりまったり進めて行きたいと思います。
デザインも、夏らしく青空にしてみました。今回は、青を基調とした感じ…でしょうかv
離れていた間、ココログもぐっと進化してしまっていて、ちんぷんかんぷんになっちゃってます(笑) 少しずつ慣れていけるように頑張ります。
今は、右サイドバーのメニューやら、小説やら、色々と整理をちょこちょこやっていきたいと思っています。

今日は、私が掲載させていただいております、電子書籍の雑誌です。
『プティまり』という雑誌なのですが、私は『千羽識』という名前で、少しずつですが載せていただいております。本当にこちらもマイペースでご迷惑をおかけしてばかりです…orz
少しでもハイペースになれるように頑張らなくては(^^;

プティまりのブログはこちら!
http://blog.goo.ne.jp/p-mari-s/
色々と充実したブログとなっています!
プティまりの内容は、もう本当に広くて、源氏物語から私が掲載させていただいているようなもの、恋愛小説…などとても幅広いです。
私自身も、学ばせて頂くことがとても多く、どれだけ感謝してもしたりません(^^
毎回表紙がとても素敵で、綺麗ですー。

Pti1 Pti2

興味がありましたら、是非買ってみて下さいませ!
私は残念ながらMacなので、PDFしか読めないのですが良ければ感想など聞かせていただければ、とても励みになりますので、宜しくお願い致します。
まだまだ未熟者ですが、書く意欲も戻ってきて、もっともっと頑張ろうと思います。

ココログの動きにもついていけるように、お久しぶりなブログ様にもコメントしにいこうかな、と思います。
これからもこちょこちょいじったり、また小説のアイディアも出てきたので、書いていこうと思います。

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August 11, 2006

はだしのヨル

久しぶりの小説です。読みにくいところありましたら、申し訳ございません(滝汗)
なんだか一気に書いてしまいましたので、誤字脱字ありましたらすみませんorz
小説も見やすいようにサイドバーできちんと整理をしていきたいと思います。


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『はだしのヨル』 >> 短編小説


 けれど、それに僕は心惹かれた。
 それは認める。彼女は、とても美しかったし、歩いている人が10人いれば、10人とも振り返るであろう美貌も持っていた。閑散とした場所に佇んでいるはずなのに、彼女のまわりの空気だけ、光り輝いているように見えた。
 今からやらなければいけないことがあったはずなのに、そんなものは心の中からぽっかり抜け落ちてしまって、僕は彼女をじっと食い入るように見つめていた。
 彼女は、振り返ってこちらを見つめて、ただそこに呆然と立っている僕に向かって、微笑んだ。

「あなたも、死にきたの?」

 それが、僕と彼女の出会いだった。


 唐突に何もかもがつまらなくなってしまった。多分、それが発端だろうなと思う。僕を取り巻く世界は常に暗澹としていて、その薄い暗闇の中で、薄っぺらい未来を追いかけている、そんなようなものだった。
 何もかもに終止符を打ちたくなって、だから僕は屋上へ向かった。
 僕の名前は松本と言う。下の名前は嫌いだ。親がつけた名前だから。それを言ったら名字も親と同じだから嫌いだ。だが、それだと呼ぶのに困る。だから、名乗る時はずっと名字を名乗り続けていた。下の名前は、だから言わない。両親は離婚。母親の元で暮らしている。その頃からだったかもしれない。小さい頃には、きらきらと輝いて見えていた周りの風景が、急に寒々とした灰色、黒……それらの色が混濁したように見えてしまった。暖色系の色なんか無くて、だから僕は目を塞ぐ。

 階段をゆっくりと一段ずつ踏みしめるようにして上って行く。一歩一歩死に近づいて行く。けれどそれを怖いとは思わない。それは、僕が望んだことなのだから。
 軋む扉を開ける。ここの鍵は、何年も前に壊されてしまって今はその形だけだ。簡単にひねれば取れる。ガチャン、と大きな音を立てて鍵が落ちる。鎖を一回腹いせに踏んで、屋上に出る。扉を後ろ手に閉める。
 冷たい風が体を刺すようにして吹いていた。殺風景な屋上は、何も無くても退廃的な雰囲気を醸し出している。日光を遮るものが何も無いので、夏は熱中症になるくらい暑いし、冬はとことん寒いので、春と秋以外は誰もいないことが多い。今日も、冷たい風が我が物顔で街を舐め回すように吹いていたこともあって、誰もいない。
 制服の袖をきつく握って、3歩踏み出す。怖がってはいけない。これは、僕が選んだ結末なのだから。僕が選んだ終止符だ。
 これで、全てが終わる。全てのものから、解放されるのだ。
 そこで、初めて僕は屋上の全体を見回した。前しか見ていなかったことに気付く。そして、右に目を向けた時。
 人がいるのに気付いた。
 鼓動が速くなる。

 どくんどくんどくんどくん。

 彼女が、裸足だったからだ。靴はどこにも無い。制服は、この高校のもの。歪んだ空のもとに佇む彼女は、とても綺麗だった。僕を取り巻いていたのは、暗く灰色の世界だったけれど、彼女の世界はそれと対照的だと思った。
 長い長い黒髪だ。背中の辺りまである。
 鼓動が速くなる。
 彼女は、遠目でも分かる白い指をフェンスに絡ませて、少し前のめりになっていた。スカートの下は、靴下も靴も無く、白い雪のような肌が艶かしく剥き出しになっていた。
 僕は、そこで呆然と立っていた。
 そして、彼女が振り向く。長い黒髪が揺れた。僕に向かって、微笑む。

「あなたも、死にきたの?」

 僕は驚いて、軽く頷く。彼女の顔はとても安らかで、今から『死ぬ』とは思えない程だったからだ。彼女は、もう一度優しく微笑んでからまた元の向きに戻り、フェンスをさらにきつく握った。白くて長い足。爪先でとんとん、と屋上の床を叩く。風はさらに強くなる。
「こっちに来たら?」
 前を向いたままで、彼女がそう言った。最初は優しい声音に聞こえたが、よくよく聞いてみるとそれはどことなく冷たさを帯びていた。僕は、恐る恐る彼女に近寄って、隣に座る。彼女は僕が近くに来てもどうでもいいのか、前を向いたままだ。歪んだ空と、軋んだ街をずっと見つめている。
 彼女を見上げると、その瞳が動かず、あまりにも真っ直ぐで僕はすぐに目を逸らしてしまった。
 こんな人、学校にいたのだろうか。
「何年生なの?」
 不意に、彼女が問い掛けてきた。それがあまりにも唐突だったので、僕はびっくりしつつ慌てて答えた。
「…2年生」
「そっか。じゃぁ、あたしの方が先輩だ。あたしは3年」
 僕よりも身長は小さいので、後輩か同年代かと思っていた。けれど、顔立ちや仕草はやけに大人びているので、実際のところは分からなかった。僕よりも先輩だった。
「何しにきたの?」
「終止符を打ちに、です」
「なんで?」
「全部、つまらないから」
 淡々としたやりとりを繰り返す。彼女は、いつのときも冷静沈着でそれを崩す時は無いのだろうと思わせた。その間も、爪先はとんとんと忙しなく床を叩いていた。
 空の歪みはさらに激しくなっていて、今にも雨が振りそうだった。その雨が穢いものを全て洗い流してくれればいいのに、と思う。そうしたら世界は一枚皮が剥けて、新しいものに変わるのでは無いのだろうか。
 そうしている間にも、彼女の目は真っ直ぐ一点を見つめているだけで、僕と会話をしているだけでも動くことは無かった。彼女の雰囲気は、穢いものも綺麗なものも全て知っているのに、瞳だけはまだ何も知らなくて、そこだけ純真で純粋で無垢なような気がする。それだけ、彼女の瞳は綺麗だったのだ。
「…で、自殺しないの?」
 少しだけ口元を意地悪気に歪めて彼女は言った。
「先輩はしないんですか」
「どうしようかな」
「じゃぁ僕もしません」
「あたしで決めちゃっていいの?」
 初めて心から楽しそうに笑った。けれど、その心を映していたのは口元だけで、瞳だけは真っ直ぐ前を見つめていた。
「どっちでも良いことなんです。自殺なんて」
「そっか、そうだよね。じゃぁあたしもしない。別にどっちでもいいし」
「…………」
「あなた、名前なんて言うの?」
「松本」
「あたしは一条。ここで会えたのも縁かもね、宜しく。松本くん」
 彼女は僕の方を振り返って、微笑んだ。黒髪が揺れる。
「…こちらこそ。一条先輩」
 太陽のような笑顔を見せて、瞳を僕に向けて、彼女…一条先輩は長い髪と、スカートを翻してドアの方に歩いて行った。その長く白く、冷たい素足のまま。


「おーーーーまえーーーなーーーっっっっ!」
「……?」
「ず、ズルい奴だなしらばっくれる気KAYO!」
「………」
「お前が知らないと言っても俺は知ってるぜー!」
「………」
「松本ォォォォオオオオ!お前昨日、屋上でっ!」
「………」
「一条先輩といただろぉぉおおおーーー!」
「………」
「俺のっ!俺の心のアイドルをッッッ!どうしてくれる松本!お前死刑だ!」
「………」
 朝から耳元でガンガンと言われて、頭がガクガクする。僕は無言で川崎を見つめた。僕はなんでこいつと仲が良いんだろうと思いつつ、適当に聞き流す。
 自分の席に座ると、隣でぜいぜいと息をしている川崎が恨みがましい目で僕のことを見つめていたのだ。気味が悪くて沈黙してしまう。…一条先輩って誰だっけ、と思って昨日のあの素足の先輩なんだと思い出す。
「いた。それが?」
「ズルい!抜け駆けだ!」
「………」
 川崎のテンションは果てしなく高い。川崎と知り合ったのは、高校に入ってすぐで、2年に上がった今も何故か同じクラスになってしまって、このザマだ。川崎のことは嫌いでは無い。川崎はムードメーカーで誰にも好かれるようなそんなタイプだった。勉強は出来ないが、スポーツの成績は優秀。明るくて、優しい。僕は明らかにクラスの中での外れものだったし、いじめられるというよりは視界から除外されているという感じだった。
 自分でもそれを自覚していたし、それでも良いとずっと持っている。とにかく、川崎がなんで僕なんかに構ってくれるのか全く分からないというのが現状だった。
 そうこうしている間にも川崎は隣でううう…と唸りつつ、泣いていた。
「あのなぁっ!ど、どういう成り行きで!」
「…成り行きで…って。屋上に行ったら会っただけ」
「…う、運が良すぎる…!」
「あんな先輩うちの学校にいたっけ」
「転校だよ。超・微妙な時期だけど」
 はぁー、とため息をついて川崎は僕の前の席にどん、と腰掛けた。
「お前、一条先輩について知ってるか?」
「知らない」
 即答する。昨日、少しだけ話しただけで分かったことは何も無い。綺麗だということと、変わり者だということくらいだ。昨日のことを思い出そうとすると、まずは歪んだ空とあの瞳と素足が出てくる。あの人は、きっといつでも自然体だ。他の人の目を気にしない。そんな気がする。一条先輩については、全てが推測でしか出来ない。
「3-B組出席番号3番成績優秀スポーツ万能けれど他人に対する温度は氷点下別名女王」
「……」
 どうしてそんなに詳しい…という疑問を喉の奥に飲み込んで、今川崎に言われた情報を頭の中で整理する。
「しかも、いっつも早退。なんだか家の事情が複雑らしい」
「…へぇ」
 一条先輩は素直じゃなくて一癖も二癖もある人だと思う。それが最初の印象だ。複雑なのかも、とずっと思っていたが、やっぱりその勘は的中したようだった。あのクソ寒い屋上に裸足でいるということから、何かが違う。周りとは、きっとずれている。
「出席日数は留年しない最低数だし、でもテストはすごくよく出来るし。だから先生も何も言わない…言えない」
「複雑だね」
「関わらない方が良いんじゃないのー?」
 川崎は、急に真面目な顔になって僕に言う。ずい、と顔を近づけて囁く。
「ヤバそうなお兄さんと歩いてたって話もあるし、危ないと思うけどな、俺は。松本がそれでいいんならいいけど」
 僕は間髪入れず答える。こんなもの、答えは決まってる。
「僕はやりたいようにするよ」
「……………そうだな。それが松本らしいよ」
 最後に悪戯っぽく微笑んで、川崎は席を立ち、他のグループの方に歩いて行った。川崎のことは好きだ。僕のことを心配してくれているし、優しいし。けれど僕はそれに冷たく接することしか出来ない。そういうもの。
 僕の席は窓際で、天気のいい日には気持ちのいい日差しを受けて微睡むことが出来る。けれど、今日はまた曇りだ。分厚く灰色の雲が空を覆い尽くしている。隙間が無いようにびっしりと。また、空が歪む。
 太陽は雲の後ろ側で、必死に光ろうとしているけど、雲はそれを阻む。
 川崎を見ると、また別の人と楽しそうに笑っていた。僕はあんな風に笑えない。川崎には、一種の憧れみたいなものを抱いているのかもしれなかった。

 授業が終わって昼休みになると、僕の足は吸い寄せられるようにして屋上に向かっていた。昨日と同じように、その錆びた階段を一歩ずつ的確に踏み出して行く。屋上に行く度にあるこの高揚感。
 蝶番がもうおかしくなってしまっているドアを開けると、予想通り。そこには、一条先輩がいた。僕はゆっくりと歩いて先輩の近くに行く。一条先輩は気付いているか気付いていないのか、きっと気付いていると思うけれど僕には何も言わずに、僕のことを見もしないで、何かを言いもしなかった。その瞳は、やっぱりどこか一点を見つめていて、僕は黙ってそばにいた。
 何分か経って、やっと先輩が動く。フェンスに絡ませていた指をほどいて、ゆっくりと僕のそばに腰掛ける。今日は靴下も靴も履いていた。
 僕の視線に気付いたのか、一条先輩が微笑んだ。
「そういっつも裸足なわけないでしょ」
「…そうですよね」
 それじゃぁ色んな意味で危険だ。
「パンあります。食べますか」
 僕は、購買で買ってきたメロンパンを取り出した。もう1つの焼きそばパンは僕が食べる予定。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
 先輩は、僕の手からメロンパンを受け取り、食べ始めた。一条先輩の口の動きが一段落したところで、僕は問い掛けた。川崎から聞いた話が本当かどうか確かめたかった。気にしてない、と自分の心に暗示をかけていたつもりだけど、でも本当はとても気になっている。
「早退してるんじゃないんですか」
「はい?」
「いっつも早退してるって聞きました。今日は早退しないんですか」
「するよ。あたし、このメロンパン食べたら帰る」
「なんで早退するんですか」
 一条先輩が沈黙する。何かを考えているようでもあった。
「やりたいことがあるから、かな」
 そうですか、と僕は呟いて、焼きそばパンを口に入れる。ふと、横の先輩を見た時、それが目に入ってきた。メロンパンを持っている先輩の手が。袖から覗く手首のところに、焼け焦げの後があることろを。
「…先輩、それ…」
 一条先輩は、最初「?」という顔をしていたが、僕の目が手首に注がれているのを見て、袖で無理矢理手首を隠した。小さな焼け焦げ。真っ先に出てきたのは、タバコの焼け跡だった。
 先輩の表情は、とても複雑なものだった。驚きと不安が混じっている。けれど、無理矢理笑おうとしているような。その後、自嘲気味に笑った。慣れっこだと言わんばかりに。きっと幾度か同じようなことがあったのだと思う。しばらく沈黙すると、先輩の顔からは驚きや不安という表情は僅かな痕跡を残して、消えていた。
「ん、なんでもないよ」
 そういうと先輩は空になったメロンパンの袋を自分のバッグに詰め込んで、立ち上がった。
「ありがとう。メロンパン。またね」
 笑っている。けれど、その笑みはとても寂しそうだった。
「…さようなら」
 僕も呟く。そのとき、もう先輩は屋上にいなかった。黒い髪が揺れたのを最後に見て、僕ははと気付く。
 他人のことが気になるなんてとても久しぶりのことなのだ。誰かに干渉する力なんてずっとずっと昔に無くしたと思い込んでいたのに。孤独であったはずなのに、きっと僕は独りでいることがとても怖かった。
 僕は、駆け足で先輩の後を追った。どうしてそうしたかったのかは、分からなかった。
「先輩!」
 ゆっくりと、振り返る。長い黒髪がまた揺れた。きょとんとした表情で僕の方を見つめる。
「…松本くん?」
「僕もついていきます。早退」
「へ?」
 さらにきょとん、とした表情で先輩が言う。目をぱちぱちとさせて。それから、ぷっと吹き出した。
「いいよ。おいでよ、まつもとくん」
「…なんで笑うんですか」
「だってあんなに元気な松本くんなんか、初めて見たよ」
 元気だったのだろうか。そんなことを思っていると、先輩が白い掌を僕に向けて差し出してきた。僕の方こそ、こんなに楽しそうな先輩を見たのは初めてだ。心底嬉しそうに、階段の下から先輩が、僕に向かって手を伸ばす。袖の中から焼け焦げが見える。それは、1つでは無く無数で、色々なところに分布しているのも分かった。
「ほら」
 先輩が掌をさらに僕に突きつける。僕は、その白い掌に自分の掌を重ねて、固く握りしめた。
「では、逃避行いきますか」
 学校も、勉強も全部捨てて僕は先輩についていった。歪んだ空は少しだけ輝いて見えた。雲間から太陽が見えた。少しでも光を下界に送ろうと、厚い雲を殺そうと、そうやって赤い手足を伸ばしている太陽が見えた。

 いつもと違う街だった。こんな時間帯に外を出歩いたりしない。補導されないのかな、などと思いつつ先輩の後ろについて歩く。街は忙しなく動いていた。いつも前に前に進もうとしている。その流れはとても速くて、だから東京は忙しい街なんだ、と思っていた。よれよれのスーツに、破れかけている鞄を持って時計を確認するサラリーマン。眠そうな目をして友達と歩いている高校生。そして、僕たちのように『逃避行』した高校生。
 僕は、大人が嫌いだ。すれ違ったサラリーマンを目で追ってそう思う。理不尽な言葉を投げかける。自分は出来もしない癖に。僕の父親は浮気をして去って行った。全てに疲れたと言って、2年前に。母親はノイローゼ気味。僕は父も母も嫌いだったし、けれどそんな両親に本当は愛してほしい、と思っていること…それが、とても腹立たしかった。
 母親と僕を置いてのこのこと暮らしている父親のことも嫌いだし、父がいなければ何も出来ない母親も大嫌いだ。そして、僕は僕自身のことも嫌いだった。
「ほら、あの女の子」
 そう言って一条先輩が指差したのは、ベンチに黙って腰掛ける長い髪の少女だった。カールした髪の毛が無造作に撥ねていた。その子は、一心に地面を這うありの行列を眺めていた。
「この前もいたの。ずっと、あそこにいる」
「先輩に似てますね」
 僕は素直な感想を口にした。先輩は分かっていなかったらしく、「え?…そうかなぁ…」と言って、何度か自分と少女を見比べてから「似てないと思うけどなぁ」と言った。先輩は、普通に笑って無邪気に振る舞えば、少女のようにも見える。雰囲気が大人びていると、もっと年齢も上に見える。
「あたし、お腹すいた」
「さっきお昼食べたばっかりです」
「成長期の子はたくさん食べなきゃいけないの」
「先輩成長期なんですか」
「そうよー。まだまだ身長伸びる」
「…そうですか」
 多分、これくらいの身長が丁度いいんですよ。…とは言わなかった。思ったことを全て口にするのは良く無い。
「あ、」
 何かに気付いたかのように先輩が声をあげた。
「向こうにね、美味しいクレープ屋さんがあるんだ」
 そう言うが否や、僕の手を握って、学校で僕を外に連れ出してくれた時と同じように、前へと引っ張りだす。少しだけ走ると、ピンク色の可愛らしい小さな店が見えてくる。色々なお菓子の絵が描いてある看板には『Crape shop』と書いてあった。
「おじさん、クレープ2つ。…ストロベリーと…バナナアイスのやつ」
「みっちゃんじゃないか。久しぶりだね。学校はまたサボっちゃったのかい?」
 人の良さそうな白髪の男が言った。僕は思わず聞き返す。
「みっちゃん…?」
「下の名前。…ありがと、おじさん」
 その間にも、クレープを2つ受け取って、一条先輩は歩き始めていた。僕は遅れないようについていく。みっちゃん、というのはどうやら下の名前のニックネームっぽかった。僕は下の名前を聞かれると、とても嫌になる。それと同じように、他の人に嫌な思いはさせたくない。だから、自分が嫌なことは他の人には聞かない。干渉しない。…そう、決めたはずだった。
 先輩は、ずかずかと歩いて行った。目の前には、噴水がある。真ん中から水が吹き出していて、その周りにベンチがある。先輩はベンチに腰掛けると、とんとんと隣の席を叩いた。僕に座れ、と言っているらしい。
 僕がそこに腰掛けると、微笑んでクレープを渡された。クリームの上にいちごのジャムがかかっているものだった。
「…くれるんですか」
「勿論。松本くんの為に買ったんだよ」
「じゃぁ、お金、」
「これはあたしのおごり。付き合ってくれてありがとう」
 無理矢理ついてきたのは僕の方なのに。そう思って、クレープを食べた。甘みが口の中で溶けて行く。じんわりととろけるような味が広がって行って、少しだけ僕の顔が綻んだ。横を見ると、じっと先輩が僕のことを見つめていた。
「…な、なんですか」
「松本くんは笑ってた方が絶対いい」
 ありがとうございます、と小さく言った。いつから本気で笑っていないのか、もう分からなくなってしまった。噴水がこの曇り空の下で気持ち良さそうな音をたてて吹いていた。僕は太陽が出てきた時の水がとても好きだった。きらきらと光って、ゆらゆらと揺れる水面に反射する太陽の光がとても好きだった。同じように、水中も好きだった。上から降り注ぐ光を見るのが。水の中に音は無い。うるさい喧噪に悩まされることも無い。煩わしい耳鳴りも、そこだと消えてしまうような気がする。噴水を見てそう思っていた。
「…さっきのさ」
 先輩がクレープを食べながら言った。
「火傷。あれ、あたしのお父さん」
 …話が唐突過ぎて、よく意味が分からなかった。先輩にえ?と聞き返した。
「さっきの、あの手首の火傷。あれは、あたしの、お父さんが、つけたものです」
 読点を入れて、ゆっくりと喋り始めた。瞳は、いつものように僕の方を向いていなくて、まっすぐ前を見ていた。特定の人を見ているのでは無く、その人の流れを見ているようだった。少なくとも、僕にはそう見えた。
「あたしのお母さん、ずっと前に死んじゃったんだ。病気で。…父さんは、母さんのこと好きだったんだと思ってたんだけどなぁ」
 思い出すかのように、目を閉じる。
「父さん、大してカッコ良くも無いのに、たくさんの愛人がいるんだから」
 けれど先輩のお父さんなのだから、きっとそれなりにカッコいいのだと思った。…とても複雑な事情のようだった。
「あたし、父さん大嫌い」
「僕も、父と母は大嫌いです」
 先輩がこっちを向いて、弱々しく微笑んだ。いつの間にか、クレープは無くなっていた。クレープを包んでいた紙をくしゃくしゃと握りつぶして、近くにあったゴミ箱に向けて投げる。
「でも、本当は大好きだからやってらんない」
 静かに、先輩が呟いた。
 突如、僕と先輩の目の前に人が現れる。
「………」
 僕は黙ってその人を見上げた。糊がきいているスーツを着て、僕たちの前に立ちはだかるようにして、いた。年齢は二十代後半くらいだと思った。若々しい顔つきをしているのに、その顔には疲労の色があるように見えた。先輩は一回だけ俯いてから「佐野さん」と言った。
「ミキ、ここにいたのか。遅かったな」
「…ごめんなさい」
 一条先輩は『佐野さん』にそう言ってから僕の方を向いて謝る。
「ごめん、あたし待ち合わせしてたの。付いてきてもらったのに、ごめんね。また今度…遊ぼ」
「ミキ、行こう」
 その男の人は僕に目もくれないで、先輩の手をひいて歩いて行った。先輩が、僕の手をひくのと同じように。
 そうか、やることって
 このことだったのか。
 僕は、しばらくそのベンチにいたけれど、厚くなって行く雲の下にいるのが嫌で、家へ帰ることにした。家には、母しかいない。小さなアパートは、僕たち2人には広過ぎた。何も無い空虚な空間に戻らなければいけない。
 この世界の全てが現実と似通った、けれど違う。そんな虚構の世界であれば良かったのに。ここは疑似世界で1つの扉を超えてしまえば、そこには幸せに満ちあふれた世界があるような気がして、……。ずっとそんな気がしていた。

 次の日、屋上には誰もいなかった。いつもの通り、分厚い雲の下で僕は1人で昼食をとった。購買のパン2つは僕には多過ぎて、1つは家で食べることにした。川崎は、相変わらず僕のことを心配してくれていたが、僕は「大丈夫」と言って1人で屋上に来た。川崎に聞くと、先輩は屋上に来ていないだけでは無く、学校も休んでいるようだった。
 僕が幸せだと思ったことは、いつも一瞬のうちに幻のように消えてしまう。全てが、夢幻。忘れてはいけない。僕がここで何かを求めることは間違っているのだ。楽園は何処にも無い。人は、苦しみから逃れることは出来ない。
 先輩が『佐野さん』と何らかの関係を持っているのは瞭然だったし、否定する言葉も無い。
 立ち上がって、屋上のフェンスに掌を乗せて、下を見つめる。忙しなく動いている空気。ここからあそこに飛び降りて行きたい、とは思えなかった。
 昼食も終わり、階段から下に降りようとすると、そこには川崎がいた。
「…川崎」
「お前、あそこで何やってるんだ?」
「何も。昼ご飯」
「俺は、お前のこと心配してるんだけどな!」
 少しおちゃらけた風に、川崎が言った。
「お前は、誰とも付き合おうとしないし、誰を好きになろうともしないし、なんつーか、色んなもの遠ざけてんじゃん。だから、そういうのって損だと思う」
「…損だ。知ってる」
「本当は松本っていい奴だと思うんだけどなぁ」
 川崎が苦笑している。けれど、僕はいい奴じゃない。
「ありがとう」
 そう言って、ここまで来てくれる川崎に礼を述べる。
「僕は何も出来ないのに、ありがとう」
「…お、おう…お前が、お、お礼言うなんて珍しいな!…おうよ!こっちこそありがとうだ!」
 少し驚いたようだったが、最後はにかっと笑って川崎はとんとんと軽くジャンプして階段を駆け下りて行った。彼には感謝している。僕には、何も恩返しなど出来ないけれど。
 僕は、階段を降りて、そのまま昇降口に向かった。元々そのつもりで持ってきていた通学バック。先生に見つからないように、急いで走り出す。
 少しだけ歩いて、賑やかでうるさくて、忙しないあの商店街に出る。先輩と歩いた、あの商店街だ。ここに来れば、会えるんじゃないかと思った。クレープ屋のところも歩いてみる。おじさん…は、僕のことを覚えていたようで軽く微笑んだ。高校生がこんな時間にサボりをしていても、怒ろうとは思わないらしい。
 それから、噴水のところに行く。ふと、空を眺めると厚い雲は少しずつ消えてきていて、太陽が雲間から顔を覗かせていた。僕の所にも、木漏れ日が射し込む。必死に雲を殺して、必死に赤い手足を伸ばした太陽が、僕に光を与えようとやっきになっている。この後は、ずっと雲が薄くなって行って、晴れる。そうなれば少しは僕の心も温かくなるかな、と。そう思った。
 噴水のところには、先輩がいた。
 けれど、1人だった。
「……」
 僕は、人混みの中、呆然とベンチに座る先輩を見ていた。『佐野さん』と一緒では無かったらしい。
 けれどよくよく見てみると、先輩は一点を見つめていた。けれど、いつもは全く動こうとしない瞳が緩やかに横に向かって移動しているのが分かった。先輩の目の先を追う。
 そこには、昨日の『佐野さん』と知らない女の人が2人で歩いていた。黒い服を着ている、女の人。2人で手を組んで。歩いていた。
 先輩は、俯いてその小さな両手で顔を覆った。髪が先輩の顔にかかって、僕が立っているところからは表情が分からなくなった。僕は、そこから動かなかった。

 干渉しちゃいけないと、自分に言い聞かせたはずだったのに。

 苦しむのは嫌だ。誰かが苦しんでいる姿を見るのも嫌だ。何もしたくない。
 そうやって、今までちゃんと生きてきたはずなのに。
 誰かを好きになった分だけ、自分が苦しむと分かっていたはずなのに。

 先輩が、立ち上がる。真っ直ぐ、歩いてくる。僕の方向だった。そして、先輩が顔を上げた。僕に気付く。最初、驚いたような表情をしてから、またあの弱々しい微笑みを浮かべる。その顔は、ぐしゃぐしゃだった。いつもの凛とした雰囲気も、聡明そうな顔も、全部が涙で汚れていた。
「…ごめん」
 先輩が謝る。僕は何も言わなかった。
「あたし、何も出来なくてごめん。松本くんにたくさん付き合わせちゃって悪かったね。ごめん」
 その声は震えていた。
「…今日は、待ち合わせなかったの。だけどね、会いたくてきちゃった。そしたら、あのザマだもん。…あたし、カッコわっるーいなぁ」
「……」
「どうしよっか。あたし、…どうしよっかなぁ」
「…先輩」
「あたし、どうしたらいいかなぁ」
 まだずっと微笑みかけていた。僕に向かって。行き場の無い悲しみを、自分の中で全部押し殺そうと。
 もう一度だけ微笑んで、そして僕をすり抜けて走って行った。
 僕はどうしたらいいか分かんなくて、ずっとそこにいた。
『誰かを本気で好きでも、しょうがないことはあるものねぇ』
 ノイローゼになる前の、諦めた声を思い出した。悲しそうな表情で、僕に向かって頭を撫でながらそう言った。
『父さんが、私のことずっと好きでいてくれる保証なんて無いもんねぇ』
 気付いた。僕と先輩は、とても似ている。けれど、きっと先輩の方が抱えている苦しみは大きい。僕と違って、諦めていない分だけ。それでももがこうとしている姿が、とても痛々しい。
『ユウ、ごめんね。母さん弱いから』
 僕は、優しくなんかなれなかった。
 諦めたら終わりだ。気を抜いたら、きっと死ぬ。
 だから、
「先輩」
 僕は学校の屋上に向かって走り出した。

 扉を開けると、空の下で、先輩がいた。素足にいつもの靴、ローファーを履いていて、出会った頃と同じように、フェンスに手を絡ませて、黒い髪を揺らして、そこにいた。とても綺麗で、僕はまた圧倒される。夜空の下でもそこだけ輝いているかのように。そこだけ空気が違って、だから僕は驚いた。この人と関わりを持ちたいと思った。この人に干渉したいと思った。彼女は、とても綺麗だった。
 明確に覚えている記憶。
 僕は、息を整えようとして、深呼吸をした。しばらくすると、呼吸が落ち着いてきて、動機が鎮まってきた。
 先輩の声が聞こえる。
「本当は、あたし死のうと思ってた」
「知ってました」
「自分が穢いの知ってたし」
「それも知ってました」
 一条先輩は、無感情に淡々と言う。
「あたしが悪いのも分かってた。父さんの愛人殴ったこともあったし、父さんを殺してやりたいって思ったこともあったし、多分佐野さんのこと父さんの代わりにしたかったのも分かってた」
 初めて会った日と同じように、
「佐野さんに対する気持ちも分かんなかったし、好きなのかも嫌いなのかもそういうのも分かんなかったし、だからあたしは駄目なんだと思った」
 フェンスに指を絡ませて、
「母さんのこと好きなはずだった父さんのこと嫌いになって、自分も嫌いで、だからここに来た」
 長い黒髪を揺らして、
「もうどこにも行きたく無くて、だから靴を捨てた。靴が無ければあたしは歩けない。ここにいれば、全部が洗われるような気がした」
 スカートを翻して、
「そんなのは偽善だって分かってるのに、なんだかあたしの罪とか全部消えるような気がした。どこにいっても同じだって分かってるのに」
 彼女は笑う。
 その靴を脱ぐ。素足が見える。いつもの通り、綺麗な白い足。けれど出会った頃とは違って、足には焼けこげの後がついていた。小さな焼け焦げだ。そして、その頬には痛々しい程の青あざがあった。さっきは涙で気付かなかった。それしか見ていなかったから。今見ると、これも白い肌にくっきりと浮き立っていた。
 その靴を持って、がっしりと二足とも握って、それを遠くに

 投げた。

 大きな弧を描いてふうぅうんっ、と靴が遠くに飛ぶ。靴はどんどん下に落ちて行って、見えなくなる。
「皆死んじゃえーーーーーーーーーーーーーー!」
 力一杯叫ぶ。そんな先輩の姿を見るのは初めてで、僕はまた唖然とする。
「父さんも佐野さんも母さんもあたしも…松本くんも、みんなみんな死ね!」
 いっそ潔くて気持ちいいくらいに、僕の胸に死刑宣言が突き刺さる。僕は、その言葉を聞いて、一気にフェンスまで走る。勢いをつけて、フェンスを駆け上って、その細い棒の上に腰掛ける。
「僕死のうかな、一条先輩」
 一条先輩は気持ち良さそうに微笑んだ。
「それもいいんじゃない?」
「ですよね」
「でも出来ないからね松本くん」
「分かってます」
「皆、死ぬのが怖いんだよ」
「知ってます」
「だから一回、死んでみれば?松本くん」
 何度も僕の名前を呼んで、先輩はフェンスに指を絡ませて笑う。僕も微笑んだ。
「言ってることめちゃくちゃですよ」
「そうだよ。それがあたしだもん。ってことで、死んでみれば?」
「無理です。僕は死ねません。だってここには先輩もいるし、川崎もいるし」
 笑う。どれだけ久しぶりだろう。心の底から楽しいと思って、嬉しいと思って、微笑むこと。いつから周りの世界がつまらないなんて、混濁しているなんて、そんなことを思っていたんだろう。本当はずっときらきらしていたのに、僕はそれに気付いていなかっただけだ。僕はひどく愚かだから、だから駄目なんだ。だから僕はいつまで経っても愚かだし、駄目だと思う。
 支離滅裂でもいい。何を言ってるのか分からなくてもいい。僕がここにいれればいい。
 誰かを好きになれれば。自分を好きになれれば、それでいい。
「先輩、大好きです」
「うん、ありがとう」
 一条先輩はそう言って微笑んだ。僕と同じようにフェンスに腰掛ける。少しでも押せば落ちてしまう不安定な状況。ここが僕現在地。危険だけど、それが良くてだから僕はここにいる。裸足の夜は、とても冷たくて、凍えそうだった。だから、お互いに暖め合わなくてはならない。
 歪んだ空が見える。軋んだ街が見える。
 いつからか、それが綺麗だと思える日が来ますように。

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